(Pt:患者 / 頭医:頭痛専門医)
◆片頭痛のメカニズムはまだ完全には解明されていない
Pt:片頭痛って、そもそも何が原因なんですか?
頭医:実は、片頭痛の正確なメカニズムはまだ完全にはわかっていないんです。でも、これまでにいくつかの理論があって、『神経説』『血管説』『三叉神経血管説』が代表的です。
◆前兆のある片頭痛とCSD
Pt:前兆が出るタイプの片頭痛もありますよね?どうしてあれが起こるんですか?
頭医:それには『皮質拡延性抑制(CSD)』という現象が関係しています。これは、脳の神経活動が一時的に抑えられて、それがゆっくりと脳の表面を広がっていくというものです。視覚異常なんかはこのCSDの影響なんですよ。
◆CSDの証明
Pt:そんな現象ってどうやってわかったんですか?
頭医:昔、自分の片頭痛の視覚の異常を科学的に分析した研究者がいて、視野異常が3mm/分の速度で広がっていたそうなんです。その後、ウサギを使った実験でも同じ現象が確認されて、CSDが実際に存在することがわかりました。
◆頭痛が始まる仕組み
Pt:それで、実際に痛みが起こるのはどんな仕組みなんですか?
頭医:痛みの発生には、三叉神経という神経と、それに関係する『CGRP』や『PACAP38』という神経ペプチドが関わっています。この神経ペプチドが放出されると、血管が拡張したり炎症が起こったりして痛みを引き起こすと考えられています。
◆光が苦手な理由
Pt:片頭痛のとき、光がつらいのはなんでですか?
頭医:それには『内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGCs)』という目の中の特殊な細胞が関係しています。この細胞は普通の視覚とは別ルートで脳に光の情報を伝えるんですが、それが片頭痛の光過敏につながると考えられているんです。
◆血管説とその限界
Pt:血管が原因って聞いたことがあるんですが?
頭医:それが『血管説』です。昔は、脳の血管が収縮して前兆が起き、その後に拡張して痛みが出るとされていました。でも今は、血管の状態と痛みが必ずしも一致しないことがわかってきて、血管説だけでは説明できないとされています。
◆セロトニン説
Pt:セロトニンっていう物質も関係してるんですか?
頭医:はい。片頭痛の発作中にはセロトニンが減少することがわかっていて、尿中にその代謝産物が増えることも確認されています。ただし、セロトニンそのものを使った薬は副作用が強すぎて実用化されませんでした。
◆三叉神経血管説
Pt:三叉神経ってなんですか?
頭医:これは頭の中で血管とつながっている大事な神経です。刺激を受けるとCGRPなどの物質が放出されて、神経性の炎症が起き、血管が広がって痛みが起こる。これが『三叉神経血管説』です。
◆予兆期の存在
Pt:頭痛の前に調子が悪くなることがあるんですが、それって?
頭医:それは『予兆期』ですね。数時間前からあくび、気分の変化、光過敏、首のこりなどが出ることがあります。最近の研究では、脳の視床下部の活動が変化していることもわかっていて、片頭痛の始まりと関係していると考えられています。
◆神経ペプチドと治療の進展
Pt:神経ペプチドってよく出てきますけど、何なんですか?
頭医:神経ペプチドは、神経から出てくる特別な分子で、片頭痛に関与していることがわかっています。特に『CGRP』と『PACAP38』が重要です。最近ではCGRPを標的とした新しい薬(抗CGRP抗体など)も登場していて、片頭痛治療の進歩につながっているんですよ。
◆PACAP38と新しい治療の可能性
Pt:PACAP38はCGRPと同じなんですか?
頭医:少し違います。PACAP38は視床下部から出る物質で、片頭痛の予兆に関与する可能性があるんです。さらに、PACAP38はVIPという別のペプチドと似ているけど、片頭痛への影響はPACAP38の方が強いとされています。今後は、PACAP38やその受容体(PAC1受容体)をターゲットにした治療薬が開発される可能性が高いです。
◆ipRGCsと光過敏の仕組み
Pt:じゃあ、ipRGCって光過敏に直接関係してるんですね?
頭医:はい。2002年に見つかったipRGCはメラノプシンという光を感じる物質を持っていて、視覚とは別のルート(非撮像系)で脳に信号を送るんです。Nosedaらの研究では、視覚が見えない患者に光を当てても頭痛が悪化していた。これはipRGCが働いていた証拠と考えられています。
◆今後の片頭痛治療への期待
Pt:光も、神経も、いろいろ関係してるんですね…
頭医:その通りです。光過敏のメカニズムや新しい分子の役割がわかってきたことで、今後さらに個別化された効果的な治療が可能になると期待されています。片頭痛は複雑な病気ですが、科学の進歩で確実に治療の幅が広がってきていますよ。
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頭痛の駆け込み寺
頭痛専門医 島田医師がわかりやすく頭痛について解説をする
●目的:
頭痛患者は多く、どの診療科でもよくみられる愁訴に関わらず、頭痛専門医(※)は少ないのが現状である。頭痛専門外来では、1日診られて100名程度、しかも患者1人に付き長くても5分程度しか割けない。そこで伝えきれない内容を補える専門医による情報発信の場をつくる。
それにより、わざわざ外来に訪れなくても解決できる内容や、ネット検索して誤った情報を得てしまう方に対して、安心して専門医の話を聞ける場所ともなる。
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※頭痛専門医とは?
日本頭痛学会が定めた申請資格(医師免許証・頭痛関連学会の専門医・5年以上の研修・頭痛関連疾患に関する発表など)を有し、資格審査および試験により認定された医師。
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●島田医師プロフィール
《経歴》
平成21年杏林大学 医学部卒業
杏林大学医学部付属病院 脳神経外科入局
都立神経病院
杏林大学医学部付属病院
都立多摩総合医療センター
水戸ブレインハートセンター
東京大学医学部 特別研究員
《学会・専門医》
日本脳神経外科学会 専門医、指導医
日本脳卒中学会 専門医、指導医
日本神経内視鏡学会 専門医
日本頭痛学会 専門医
日本医師会認定産業医
▶YouTube : https://www.youtube.com/@頭痛の駆け込み寺
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