(Pt:患者 / 頭医:頭痛専門医)
Pt:片頭痛の診断基準って、どういうものがありますか?
頭医:『国際頭痛分類第3版』では、典型的な前兆を伴う片頭痛という基準があって、前兆の後に60分以内に頭痛が始まるのが条件になっています。
Pt:なるほど、でも前兆だけで頭痛がない場合もあるんですか?
頭医:そうなんです。前兆だけで頭痛がない場合も実は少なくないんです。特に40歳を過ぎると、前兆はあっても頭痛を伴わないケースが増えると言われています。
Pt:前兆って具体的にどんなものがありますか?
頭医:前兆には視覚性前兆(光がチカチカ見えたり、視界がぼやける)、感覚性前兆(体がピリピリしたり)、失語性前兆(言葉がうまく出てこない)などがあります。研究でも、視覚性前兆が最も多く、99% がこれに該当しているんです。
Pt:前兆だけだと、ほかの病気と間違えたりしませんか?
頭医:前兆だけの場合、TIA(短時間の脳虚血発作)、てんかん発作、脳梗塞、くも膜下出血などと似ているから鑑別が必要になることがあるんだ。特に40歳を過ぎてから初めて前兆が出てきた場合は、MRIや脳波検査も積極的に検討した方がいいね。
Pt:わかりやすい説明をありがとうございます! 注意が必要なポイントもわかってきました。それじゃあ、典型的な前兆があるけど頭痛がない場合、治療は必要なんですか?
頭医:基本的には、頭痛を伴わない典型的前兆に対しての治療は、必ずしも必要ないとされています。特に高齢者に多いケースで、積極的な治療は推奨されていないんです。
Pt:じゃあ、頭痛がなくてもリスクとかはないんですか?
頭医:1998年に行われたFramingham研究によると、視覚性の前兆があるからといって脳卒中のリスクが上がるわけではないと報告されています。でも、PFO(卵円孔開存)という心臓の構造との関連があることもわかっています。
Pt:そうなんですね。じゃあ、どんな場合に治療を検討するんですか?
頭医:頻繁に前兆が起こる場合や、長時間続く前兆が日常生活に支障をきたすような場合には治療を検討してもいいですね。
Pt:具体的にはどんな治療法がありますか?
頭医:急性期治療では、ケタミンを経鼻投与した場合に重症度が改善したっていう研究がありますが、前兆の持続時間自体は変わらないという結果だったんです。他にもイソプレナリンやニフェジピンなどが試されたけど、はっきりした効果が認められなかったんです。
Pt:それなら、予防的な治療法はどうでしょうか?
頭医:予防的な治療も、現時点では十分なエビデンスがあるわけじゃないんですが、バルプロ酸やガバペンチン、トピラマート、プロプラノロールなどが使用されています。また、ラモトリギンを使った試験では前兆の頻度や持続時間が減少したっていう結果もありました。
Pt:なるほど。でもそれだけで効果が十分とは限らないんですね?
頭医:その通り。前兆に対する治療のエビデンスはまだ十分ではないんだけど、生活に支障をきたす場合には経験的にバルプロ酸やロメリジンが推奨されることが多いです。
Pt:ありがとうございます、少し安心しました。でも、PFOに関する手術も効果があるんですか?
頭医:PFO閉鎖術についての観察研究では、視覚性前兆が消えた患者が80%に達したという結果があるけれど、エビデンスが十分じゃないから、頭痛を伴わない前兆患者への手術は推奨されていません。
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頭痛の駆け込み寺
頭痛専門医 島田医師がわかりやすく頭痛について解説をする
●目的:
頭痛患者は多く、どの診療科でもよくみられる愁訴に関わらず、頭痛専門医(※)は少ないのが現状である。頭痛専門外来では、1日診られて100名程度、しかも患者1人に付き長くても5分程度しか割けない。そこで伝えきれない内容を補える専門医による情報発信の場をつくる。
それにより、わざわざ外来に訪れなくても解決できる内容や、ネット検索して誤った情報を得てしまう方に対して、安心して専門医の話を聞ける場所ともなる。
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※頭痛専門医とは?
日本頭痛学会が定めた申請資格(医師免許証・頭痛関連学会の専門医・5年以上の研修・頭痛関連疾患に関する発表など)を有し、資格審査および試験により認定された医師。
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●島田医師プロフィール
《経歴》
平成21年杏林大学 医学部卒業
杏林大学医学部付属病院 脳神経外科入局
都立神経病院
杏林大学医学部付属病院
都立多摩総合医療センター
水戸ブレインハートセンター
東京大学医学部 特別研究員
《学会・専門医》
日本脳神経外科学会 専門医、指導医
日本脳卒中学会 専門医、指導医
日本神経内視鏡学会 専門医
日本頭痛学会 専門医
日本医師会認定産業医
▶YouTube : https://www.youtube.com/@頭痛の駆け込み寺
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